A fish on the leaf of the banana.

いまわのきわに




「原爆句抄」    松尾あつゆき




八月九日 長崎の原子爆弾の日。
我家に帰り着きたるは深更なり。
 
「月の下ひっそり倒れかさなっている下か」


十日 路傍に妻とニ児を発見す。
重傷の妻より子の最後をきく(四歳と一歳)。

「わらうことをおぼえちぶさにいまわもほほえみ」

「すべなし地に置けば子にむらがる蝿」

「臨終木の枝を口にうまかとばいさとうきびばい」

長男ついに壕中に死す(中学一年)。

「炎天、子のいまわの水をさがしにゆく」

「母のそばまではうでてわろうてこときれて」

「この世の一夜を母のそばに月がさしてる顔」

「外には二つ、壕の中にも月さしてくるなきがら」


十一日 みずから木を組みて子を焼く。

「とんぼうとまらせて三つのなきがらがきょうだい」

「ほのお、兄をなかによりそうて火になる」


十二日 早暁骨を拾う。
 
「あさぎり、兄弟よりそうた形の骨で」

「あわれ七ヶ月の命の花びらのような骨かな」


十三日 妻死す(三十六歳)。

「ふところにしてトマト一つはヒロちゃんへこときれる」


十五日 妻を焼く、終戦の詔下る。

「なにかもかもなくした手に四枚の爆死証明」

「夏草身をおこしては妻をやく火を継ぐ」

「降伏のみことのり、妻をやく火いまぞ熾りつ」









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本当にどれだけ恐ろしくて悲しいのか
身をもって知ることはできないけれど

この悲しい家族は私の家族ではないけれど

こうやって
心に刻むことしかできないけれど。


 
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by lotus-moon | 2006-08-09 09:07 | 静かなこと